2026.06.05
400 年企業の
J.フロント リテイリンググループが挑む
「次世代型 IT 組織」の真価
J.フロント リテイリング(以下、JFR)グループでは、今 IT 組織のトランスフォーメーションが本格化しています。その先頭に立つのが、2026 年 3 月に執行役常務 IT デジタル統括部長に就任した小澤稔弘です。CIO として現場と経営の両方に向き合ってきた経験をもとに、IT 組織のあり方を根本から見直し、グループ全体で改革を推進しています。IT 組織が経営の真のパートナーとなるために、何を変えようとしているのか。
小澤の構想と、その背景にある問題意識を掘り下げます。
取材:末吉 陽子 撮影:寺澤 洋次郎
IT 組織を保守運用の番人からビジネスプロセスのオーナーへ

小澤さんは 2026 年 3 月から JFR グループの IT デジタル統括部長として着任されたそうですね。JFR グループは、小澤さんの目にどのように映っていたのでしょうか。
小澤:
JFR グループは、1611 年創業の松坂屋と、1717 年の創業の大丸という老舗百貨店を擁するグループです。
さらに、パルコの若年層への訴求力や、GINZA SIX という独自のプレゼンスなど、同業他社にはない大きな魅力と強みがあります。
しかし、IT 環境に目を向けると、グループ内に似たようなサービス基盤が複数存在していたり、基幹システムが老朽化していたりと、さまざまな IT 課題が見受けられ、結果として、新しい挑戦よりも事業を維持するための IT 投資が多くなるという負のスパイラルに陥っていました。
私は前職で、事業のカーブアウトに伴う、ゼロからの IT デジタル環境構築にチャレンジし、理想に近い仕組みを整えることができました。ただ、私の目指す次世代型の事業会社 IT への変革は、構造的な課題を多く内包した困難な環境でこそ実践できなければ、真の意味で日本の事業会社 IT のあるべき姿を問う答えにはなりません。だからこそ、JFR を次の挑戦の舞台に選びました。
小澤さんが考える次世代型の事業会社IT組織とは、どのような組織なのでしょうか。
小澤:
システムの保守運用部隊ではなく、事業側と並走しながら、ビジネスそのものを前に進めていく存在です。具体的には、営業やマーチャンダイジング、SCM、さらにはバックオフィスまで含め、グループ内のあらゆる業務プロセスを主体的にコントロールする「ビジネスプロセスのオーナー組織」であり、その役割を活かしてビジネスに貢献する組織です。
その役割を象徴するテーマの一つがDXです。近年、DXは「見栄えのよいアプリや新しいサービスをつくること」といった華やかなイメージばかりが先行しがちです。もちろん、デジタルを活用して既存の枠を超えたビジネスモデルを実現するイノベーションは重要ですし、世の中ではそうした成果が成功事例として大きく注目されます。
ただ、私はそれだけがDXの本質だとは捉えていません 。DXの中心にあるのは、人がこれまでアナログな知見や属人的な判断に頼ってきた業務をデジタルに置き換え、企業が本来持っているポテンシャルをテクノロジーで最大化することです。
ポテンシャルを最大化するためには、何が重要になりますか。
小澤:
大切なのは、自動化による業務プロセスの効率化などの「小さな改善」の積み重ねです。その先に、大きな変革への道が開けます。最近ではAIエージェントの活用によって、その取り組みはさらに高度化しています。
そうしたテクノロジーの力を活用し、日々の業務で自然にデジタルを活用できる力を組織全体の能力として備え、そのベースラインを引き上げていく。このような土台があって初めて真のイノベーションに近づくことができます。
重要なのは単なるIT導入ではなく、組織の業務プロセスそのものに働きかけ、プロセスレベルでビジネスインパクトを生み出していく営みです。そして、その推進役を担うのは、従来のシステム部門の枠を超え、ビジネスプロセスのオーナーとして事業に深く関与する、次世代型の事業会社IT組織であるべきだと考えています。
DSKとBITAで高める組織力がIT機能変革の土台に

JFRグループが目指すDXには、独自の考え方があるそうですね。具体的にどのようなキーワードを掲げているのでしょうか。
小澤:
JFRグループでDXを推進し、グループのIT機能を変革させるためのキーワードは2つあります。
1つ目は、デジタル化された組織知「DSK(Digital Shared Knowledge)」の構築です。これは、個人の頭の中にあるノウハウを仕組みに変えることを指します。個人の能力を形式知として組織全体で再利用しやすいようにデジタル化して活用するのがDSKの価値です。
たとえば、ある数値が一定の閾値を超えたら次のアクションへ移る、といった判断基準をデジタル化できれば、人によるムラがなくなり、ビジネスの再現性や品質が劇的に高まります。その中で経験を積み重ねることで、誰でも80点を容易に出せる土台ができ、その上で個々人が研鑽を積むことで120点を出せる社員が増えていく。このような組織運営を可能にするのがDSKの価値です。
もう一つのキーワードが、“ビジネスプロセスをITテクノロジーでアーキテクトする” という事業会社ITで働く人の新しい職種「BITA(Business IT Architect)」です。BITA(ヴィータ)は、片手にテクノロジー、もう一方にビジネスを持ち、社内にある業務の入り口から出口までを一気通貫で把握して最適なプロセスや仕掛けを構築する役割を担います。まさしくこういった業務は、次世代型の事業会社IT組織の人がやるべき仕事と言えますが、現行のIT部門では、従来から担っているシステム開発や保守運用業務で手一杯になっているため、それに加えてBITA業務を行うのは負荷がかかりすぎるという問題がありました。
「ゼロベースで作る」から「選んで組み合わせる」へ

DSKとBITAという構想を実行に移す組織を形成するために、何から始められたのでしょうか。
小澤:
最初に打ち出したのが、IT機能の「次世代型へのトランスフォーメーション宣言」です。
JFRグループでは経営会議レベルで方針合意を取り付け、経営陣が全面的にバックアップする体制を整えました。あわせて、グループ内の事業会社IT組織もIT機能子会社も、同列のワンチームとして動かす体制に変更しました。
組織がサイロ化しているような場合は組織の統合がシンプルな解決策に思えますが、あえてタスクフォース型の横断組織「BITAチーム」を立ち上げるアプローチを選びました。理由は、人事的な負荷をかけて組織図を変更するよりも、実質的な仕掛けによって同じ目標を追う集団に変える方が、変化の激しい現代には適していると考えたからです。これにより、実質的な統合と同等の価値を、スピード感をもって実行することができます。
こうした体制づくりを経て、次に取り組んだテーマを教えてください。
小澤:
次のステップとして、最大の課題である保守運用工数の削減に向けた内製化の取り組みとして、「新内製化」を推進します。
オンプレミスを廃止し、従来のスクラッチ開発を中心としたシステムインテグレーションから、SaaSやクラウドサービスを組み合わせるサービスインテグレーションへ移行。基本は「開発しない」という方針を徹底していきます。どうしてもロジックを開発しなければならない時も、プロコード中心からローコード中心へと転換し、プログラミングは最小限に抑える。これを自社のBITAが自ら担うことで、保守運用工数や外部委託費を大幅に削減し、ビジネスへのデリバリースピードを飛躍的に高めることができます。これが新内製化の最大の狙いです。
この取り組みにより、社内のIT環境はインフラを含めてサービスを中心に構成されていき、従来の“システムインテグレーション”から“サービスインテグレーション”へのパラダイムシフトが起こります。
その結果、BITAの保守運用負担が軽減され、攻めのDXであるDSK構築に注力できる環境が整います。新内製化のレベルはまだこれからですが、時間をかけて着実に推進していきます。
今の変革フェーズとBITAという役割が重なることで、SI会社とは異なる面白さがありそうですね。
小澤:
システムを作ることだけなら、SI会社でも実現できます。しかし、事業会社で働く本質的な価値は、ビジネスの当事者として意思決定に関わり、自ら何が正しいかを見極めながら仕組みを構築できる点にあります。組織全体のプロセスを最も深く理解し、それを最適化していくBITAとしての経験を積むことは、事業会社IT人材としてだけでなく自身の市場価値を最大化するキャリアパスになるはずです。
現在、コンサルティング会社やSI会社で働いていて、事業に手触り感が欲しいと感じている方、あるいは他の事業会社のIT組織で働いているが成長のチャンスが少ないと停滞感を感じている方。経験の有無は問いません。ここでお話ししたBITAという働き方に共感してくれるなら、ぜひ私たちの仲間になってほしいです。自分たちの手で、日本を代表するリテイリンググループをデジタルで再定義していく。このエキサイティングな挑戦を、一緒に楽しんでくれる方を待っています。
プロフィール
小澤 稔弘
執行役常務 IT デジタル統括部長
大学院卒業後、大手 SI 会社に入社。その後も IT コンサル会社や事業会社の IT 領域でキャリアを積み上げた。
CIO 経歴は 20 年間にも及び、事業会社 IT の可能性や付加価値向上に尽力。
2026 年から JFR 執行役常務としてグループの IT デジタル機能を統括し、あらたな改革に挑戦する。