2026.06.05
革新的なIT組織への変革で実現する
DX推進の全貌と次世代の成長戦略
DXとは、デジタルツールの導入にとどまりません。
J.フロント リテイリング(JFR)グループのITデジタル組織は、現場に眠る勘や経験を組織全体で活用できる「知」へと昇華させ、業務プロセスそのものを根本から再設計することを目指しています。その実現を牽引するのが、DSK(Digital Shared Knowledge)とBITA(Business IT Architect)という2つのキーコンセプトです。次世代型IT組織の姿をどのように具現化していくのか。
ITデジタル統括部長の小澤稔弘氏に、その道筋を聞きました。
取材:末吉 陽子 撮影:寺澤 洋次郎
発注者側に転じて初めて見えた事業会社ITの本質的な問題

小澤さんは、20年もの長きにわたり、CIOとしてさまざまな企業のIT組織の変革を主導されてきました。どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。
小澤:
キャリアの出発点はSI会社への就職でした。配属されたのは、R&Dと事業本部の間に位置するやや特殊なセクション。ITを業務効率化のツールに終わらせず、新しい使い方を社会に提案することを掲げる部署で、強く希望して飛び込みました。
そこで手がけたプロジェクトのひとつが、オンラインモールビジネスの立ち上げです。まだECモールがなかった頃に、システムを構築するだけでなく、出店業者探しまで自ら行いました。築地の魚屋さんが参加してくれた時は、すごくうれしかったことを今でも覚えています。
またジョイントベンチャーの立ち上げでは、給与計算や経理受託、シェアードセンターの運営といったBPO事業をゼロから構築した経験もあります。この頃から、システムそのものより「ビジネスプロセスをどう設計するか」に強い関心を持っていたのだと思います。その後はコンサルティング会社に移り、様々なお客様の事業課題に取り組むプロジェクトを経験してきました。
コンサルタントとして活躍されていた中で、なぜ事業会社側に転身されたのでしょうか。
小澤:
じつは、自ら望んだわけではなく、私の所属していたコンサルティング会社を事業会社が買収したことがきっかけでした。初めて発注者側の事業会社に入ることになったのですが、そこで受けた衝撃が私のキャリアを変えました。
というのも、事業会社のIT組織は、経営をドライブさせるための道具としてのIT活用を十分に理解しないで、多くが業務やタスクをこなしているだけという状況に直面したからです。
発注者側がITを使いこなし、ITの持つ本来のポテンシャルを生かせなければ、開発を担うSI会社やITコンサルティング会社の提供価値も真の意味で高まりません。その強い問題意識が、ITデジタル領域の統括責任者であるCIOを志す原点になりました。
伝統企業こその可能性を土台にIT組織が事業変革の起点を創る

事業会社のIT組織が構造的な問題を抱えている現状について、どのように見ていらっしゃいますか。
小澤:
最大の原因は、経営陣がITの価値や意義を本質的に理解していないことです。CIOを置いている大企業でも、IT出身でない役員が、ポストが空いているからといった理由で任命されるケースが後を絶ちません。「私はまったくITがわかりません」とおっしゃるCIOも珍しくないのが実情です。
この構造的な問題があるために、IT組織は非常に報われない立場に追いやられています。たとえば、IT側はプロジェクトを安定的にマネジメントしたいのに、業務側は仕様確定時にきちんとした確認や検証をせず、後出しで無理な仕様変更を求めることは少なくありません。その結果、QCD(品質・コスト・納期)が守れなくなるとIT部門の責任にされてしまう。
また、日々の運用に関しては、安定して動いていることが当たり前と思われがちで、その裏にある努力が知られることはありません。それにもかかわらず、ひとたびシステム障害が起これば、利用者側から厳しい叱責を受ける。サイバー攻撃対策も同じで、平時にはどれだけ重要性を訴えても投資の優先度はなかなか上がらないのに、他社で大きな事故が起きた途端、「うちは大丈夫か?」と騒ぎになります。
さらに、DX推進においてはIT組織にDXはできないと決めつけられ、社長直轄で新設されたDX組織との間に「DX組織>IT組織」という歪なヒエラルキーが生まれることさえあります。
しかし、現状を嘆いているだけではIT組織に未来はない。Vol.1でお話ししたように、積極的に次世代型の事業会社IT組織に変革する道を選ぶことが重要であり、そのためにはITとDXの両方の機能を担い、DSKの構築と活用を推進するBITA組織を目指していく必要があります。
役員から始まるデジタルリテラシー改革が切り拓く次世代型IT組織への進化

次世代型の事業会社IT組織への変革を進めるにあたり、グループ全体の「デジタルリテラシー」の底上げにも注力されていくそうですね。どのように進めていくお考えですか。
小澤:
私は、ITリテラシー(ITツールの使い方)とDXリテラシー(デジタルの活かし方)を合わせたものをデジタルリテラシーと定義しています。よく「あの人はセンスがいい」、といった言葉を聞きますが、私の考えではセンスとは知識の先読みです。つまり、センスは生まれ持ったものではなく、知識の蓄積により生まれるものであり、デジタル活用もデジタルリテラシーを身に着ければ誰もが“センス良く”取り組めるようになるのです。
最初は小さな改善を体験してデジタル活用のセンスを磨き、いずれは大きなイノベーションに繋げる。デジタルリテラシーを全員が身に着け、組織の能力として保持できているというレベルまで向上させていくことが大切です。
そこで私たちは、このデジタルリテラシー研修を役員から順に実施することにしました。あえて最上位職からにしたのは、DXを推進する上でボトルネックになりやすいのは、権限を持っている中間管理職層だからです。デジタルネイティブの若手は、デジタルを日常に取り入れることが当たり前です。一方で、業務上判断を行うことが多い部長クラスのデジタルリテラシーが低ければ、デジタル活用の提案の良し悪しを判断することはできません。彼らがよくわからないという理由でブレーキをかけてしまうのが、組織にとって最も不幸なことです。
だからこそ、デジタルリテラシー関連の必須研修は、あえて役員から受講してもらい、上から順番に学び、意識を変えていってもらうことで、現場で判断する層のレベルが底上げされる。これが組織を変革していく最短ルートです。
DXを見据えた取り組みとして、全体の底上げ以外にも狙いがあるように感じますが、いかがでしょうか。
小澤:
全社員が受講するこれらの研修のもう一つの目的は、グループ全体からデジタル活用のリーディング役となるキーユーザー候補者をあぶり出すことにあります。デジタル活用に意欲がある彼らをコミュニティ化し、さらに高度なDSK構築スキルを学んでもらうことで、現場主導のDXが加速します。
デジタルリテラシーが向上すれば、業務側で初歩的なITデジタル対応ができるようになり、組織全体の業務のスピードと品質が自律的に上がっていく。誰もがデジタルの力で「知恵」を共有し、アップデートし続けられる組織こそが、私たちBITAが目指す次世代の姿です。
脱・外部依存で自らビジネスの仕組みを設計・実行できる人材へ
サービスインテグレーションへの移行により、外部パートナーとの関係性にはどのような変化が生まれるのでしょうか。
小澤:
これまでの事業会社ITにとって、ITコンサルティング会社やSI会社などのパートナーは、自社に足りない知識やスキル、そして工数を埋めてくれる不可欠な存在でした。しかし、昨今のITサービス費用の高騰は目覚ましく、外部依存を前提とした従来のモデルを継続しながらITサービスを活用することは、事業会社にとって大きな負担になっています。

私たちが新内製化を通じて目指すのは、外部パートナーに頼り切るのではなく、事業会社ITの自立です。SaaSやローコードを駆使するサービスインテグレーションへと舵を切ることで、外部パートナーを介在させずに自社で判断し、実行できる領域を広げていく。これにより、ビジネスのスピードは劇的に改善し、投資効率も大きく上昇します。

もちろん、これは自分たちで自ら背負うという厳しい道でもあります。BITAメンバー全員に意識改革とスキル向上が求められますが、これはITデジタルのスペシャリストとして成長できる大きなチャンスでもあります。
サービスインテグレーション時代のIT人材の役割はどのように変化していくとお考えですか。
小澤:
これからのIT人材は大きく2つの層に分かれていくと考えています。一つは、特定のプラットフォームや高度なテクノロジーで道具を開発するGeek(ギーク)。そしてもう一つが、Geekが作った道具、すなわち各種サービスやプラットフォームをアジャイルに組み合わせ、ビジネス価値へと昇華させるBITAです。

たとえばAIについても、最先端のアルゴリズムを開発するのはGeekの役割ですが、それをビジネスプロセスに組み込み、価値を生み出すかを設計するのはBITAの役割です。
事業会社のIT人材が目指すべきは、明らかにBITAです。最新の道具を使いこなしビジネスをすることこそが、事業会社におけるITの存在意義です。
今回お話しした取り組みは、DXを一過性のブームとして終わらせず、組織の力として根づかせていくための挑戦です。役員から現場までがデジタル活用を理解し、その上でBITAメンバーがビジネスとITの架け橋として実行を担う。そんな次世代型の事業会社IT組織を、私たちは本気でつくろうとしています。
vol.1でお伝えしたように、BITAとして事業の当事者となり、意思決定と実行に向き合う経験は、IT人材としてのキャリア価値を大きく広げていきます。この考え方や挑戦に共感してくださる方と、ぜひ一緒に未来を形にしていきたいと考えています。
プロフィール
小澤 稔弘
執行役常務 IT デジタル統括部長
大学院卒業後、大手 SI 会社に入社。その後も IT コンサル会社や事業会社の IT 領域でキャリアを積み上げた。
CIO 経歴は 20 年間にも及び、事業会社 IT の可能性や付加価値向上に尽力。
2026 年から JFR 執行役常務としてグループの IT デジタル機能を統括し、あらたな改革に挑戦する。