中期経営計画
Medium-term Business Plan
前中期経営計画の振り返り
・当初想定以上にコロナ影響が長期化したものの、中期経営計画の後半以降の需要回復を着実に捉えるべく、主力の百貨店、ショッピングセンター事業(以下、SC事業)での戦略効果、固定費削減など経営構造改革により、連結営業利益はコロナ前の水準に復活し、財務体質も有利負債削減などにより大幅に改善しました。
・2030年を見据えた再成長に向け、主力事業に加え、デベロッパー戦略では中長期計画の策定、事業再編を推進したほか、事業ポートフォリオ変革の観点から、新規事業創出に向けた出資やファンドの設立、事業の見極めなど経営効率の向上に取り組みました。
「完全復活」に向けた取り組み | 「再成長」に向けた取り組み |
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・百貨店、SCは店舗の魅力化に向けた大型改装、主力カテゴリーを拡充。インバウンド、若年層など新たな顧客層の獲得、需要拡大に手応え。 ・アプリなど顧客接点のデジタル化を推進。 ・当初計画を上回る固定費削減。 |
・グループ全体最適の観点から、デベロッパー戦略の事業推進体制を再編。中長期の開発計画などを策定。 ・「JFR MIRAI CREATORS Fund」や事業承継ファンドの設立等により、魅力あるコンテンツの創造・発掘を強化。 |
2030年を見据えた経営の方向性について
当社は、グループビジョン“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”の実現に向け、環境や社会課題に向き合い、事業を通じて解決をはかる「サステナビリティ経営」を基軸に、企業活動を推進しています。また、当社の強みは、全国主要都市を中心とする優良な顧客基盤や店舗不動産、ステークホルダーの皆様とのつながりや信頼、そして百貨店やPARCOなどで培ってきた商業プロデュース能力や目利き力と認識しています。
今後の経営の方向性を定めるにあたり、これらの当社が有する強みと重要視する経営環境の変化を踏まえ、「2030年に目指す姿」を描きました。当社はリテール事業を中核に、「3つの共創価値」を提供し続ける「価値共創リテーラーグループ」への進化をはかります。
(1) 当社を取り巻く経営環境変化
消費 |
・主要購買層の世代交代、グローバル化の進展(インバウンド需要など) ・こころを充足させる「共感・応援・信頼のつながり」への欲求の高まり ・生産・消費のサイクルから、「循環」意識へのさらなる高まり |
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市場 |
・国内人口減少、所得格差の進行 ・都市機能の更新や集約・まちづくりが進行 ・地域経済の担い手の減少、地域独自の伝統や文化への関心の強まり |
社会 |
・気候変動など環境問題が深刻化、地政学リスクの顕在化 ・人や地域とのつながりが希薄化、デジタル上でのコミュニティが台頭 ・労働力不足の深刻化、仕事選びでも自己実現、社会貢献などをより重要視 |
(2)2030年に目指す姿
1)3つの共創価値、マテリアリティ
当社が有する強みを基盤に、従来の枠にとらわれず、お客様の心を動かす新たな価値を創出すると共に、街の魅力・活力を高め、持続可能な環境や社会づくりに誰もが貢献できる文化を醸成します。
リテール事業を中核に、お客様をはじめステークホルダーの皆様と「共創」の輪を広げ、3つの共創価値を提供し続けます。
「感動共創」:顧客、従業員と共に、感動を生み分かち合う
「地域共栄」:地域の魅力を高め、地域にとって必要不可欠な存在となる
「環境共生」:環境と共に生きる社会づくりに、誰もが貢献できる文化を醸成する
上記の3つの共創価値に基づき、マテリアリティの見直しを行い、5つのテーマを特定しました。これらマテリアリティへの取り組みを事業戦略と一体となり推進し、企業の持続的成長とステークホルダーの皆様の「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」を実現します。
2)戦略の方向性
国内外の高質・高揚消費層からの圧倒的な支持を得て、
3つの共創価値を提供し続ける「価値共創リテーラーグループ」へ進化する
・消費の多様化が進み、求める商品やサービスは画一的でなくなった今、当社は、高質・高揚消費層(自身のこだわりや価値観を満たす、高質で心が高揚する消費や体験を嗜好する全ての生活者)に、3つの共創価値を提供し続ける「価値共創リテーラーグループ」への進化をはかります。
・これらの実現には、従来に増してグループ一体となり、当社の強みを拡張していく必要があります。このため、リテール事業の深化と共に、以下の「顧客」「エリア」「コンテンツ」の3つの領域でグループシナジーを追求し、飛躍的な成長を目指します。
「顧客」シナジー:
優良な顧客基盤の深耕に加え、海外顧客やMZ世代など新たな顧客とのつながりを強化します。店舗や事業会社、地域を越えてお客様とつながり、生涯を通じてお客様から選ばれるパートナーであり続けます。
「エリア」シナジー:
全国主要都市の店舗不動産や事業基盤をグループ横断で活用し、街の魅力化に貢献します。特に、7つの重点エリア(※)では、百貨店やPARCO店舗の個性を磨き上げると共に、中長期の開発計画、エリア内の顧客連携や回遊促進などを通じて、街の賑いを創出し、さらなる魅力向上に取り組みます。
※重点エリア:札幌、東京、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡
「コンテンツ」シナジー:
これまで培ってきた目利き力や調達力、また地域やお取引先、クリエイターとのネットワークを融合し、国内に加え、海外やデジタル領域での事業展開など、リテール事業の新たな成長に向けた自社コンテンツの開発を推進します。
上記の実現に向けて、新たな価値を生み出す人財交流やシステム統合など、グループの力を結集する経営基盤の強化に取り組みます。
2024-2026年 中期経営計画
(1)中期経営計画の位置づけ、全体構成
・2030年に目指す姿の実現、中長期の成長を確かなものとする『変革期』と位置づけます。
・このため、本中期計画では主力のリテール事業(百貨店・SC事業)を中心に利益創出をはかる一方、グループシナジーの具現化に向けた先行投資、成長戦略投資を拡大します。
・重点戦略として「リテール事業の深化」「グループシナジーの進化」、「グループ経営基盤の強化」に集中して取り組みます。
(2)経営数値目標
「変革期」と位置づける本経営計画の最終年度(2026年度)の財務目標として、連結事業利益 520億円、連結ROE 8.0%以上とします。また非財務目標として、温室効果ガス排出量58%削減(※)、女性管理職比率31%の達成を目指します。
<主要な経営数値目標>
(3)財務・資本政策
中長期的な資本収益性の向上をはかるため、「収益性を伴う成長の実現」と「自己資本額の適正化、株主還元の強化」に取り組みます。
①収益性を伴う成長の実現
・連結はROE経営、事業セグメント別ではROIC経営を推進します。2030年を見据えた成長投資を拡大する一方、成長性と収益性に基づく投資管理の徹底などにより、収益性を伴った成長を実現します。
・本中期計画における投資計画では、リテール事業に加え、グループシナジーの具現化に向けたデベロッパー事業への先行投資、また成長戦略投資に重点配分します。
②自己資本額の適正化、株主還元の強化
・事業成長による利益創出に加え、資本収益性の継続的な向上をはかる財務基盤を構築します。
・本中期計画では、連結配当性向40%以上の配当と自己株式の取得による自己資本額の適正化、株主還元の強化をはかります。
(4)中期経営計画の骨子
1)リテール事業の深化
①国内・海外顧客層の拡大
・百貨店事業では、アプリを活用したお得意様向けサービスの対象拡大や外商活動の広域化など、百貨店外商を基盤とする顧客基盤の拡大に取り組みます。またパルコ店舗などグループとの外商連携を推進します。
・SC事業では、アプリ会員と共に、新カードの発行を契機とする会員獲得を、JFRカード社との連携により強化推進します。
・百貨店・SC事業において、訪日外国人観光客の各店への送客や情報発信の強化に加え、アジアを中心とする海外企業との提携による顧客連携や店舗施設の相互利用など、海外顧客との関係強化をはかります。
②顧客接点の魅力化
・百貨店事業では、顧客接点の起点となる店舗の魅力向上をはかり、各地域での競争優位性を確立します。松坂屋名古屋店をはじめ基幹店舗を中心に、重点カテゴリーの継続強化に加え、MZ世代など次世代顧客やマーケット変化に対応した売場づくり、また高質で快適な店舗環境、環境に配慮したデザインなど空間価値の向上に取り組みます。
・デジタルを活用した顧客接点の拡充に向けて、百貨店アプリやお得意様向け専用サイトのリニューアルを通じた顧客コミュニケーションの高度化などに取り組みます。
・SC事業では、パルコ独自のブランド価値、来店価値の向上をはかるため、MZ世代や海外顧客からの支持拡大に向けた戦略改装を、重点4店舗を中心に実施します。渋谷・心斎橋PARCOでは初の大型改装を実施するほか、名古屋PARCOではエリア最大級のエンタテインメントやポップカルチャーの集積、次世代ファッションの導入などに取り組みます。
・パルコ店舗・オンラインでの顧客データの全社活用による顧客への発信強化、会員向けの新たなサービスの導入など、顧客接点の魅力化をはかります。
③高質・高揚消費層へのコンテンツ拡充
・百貨店事業では、国内・海外顧客から支持の高いラグジュアリーブランドや時計などの継続強化に加え、ファッション、美や健康など、マーケット変化に対応した新たなライフスタイルを提案します。
・また、富裕層マーケットへの対応強化に向けて、外部企業との協働による新たな商品やサービスの拡充などに取り組みます。
・SC事業では、店舗改装を通じたジャパンポップカルチャーゾーンの展開や百貨店との連携によるブランドの導入等に加え、パルコの強みである演劇や音楽、映画、またeスポーツなどデジタルを含めたエンタテインメントの強化をはかります。
2)グループシナジーの進化
①グループ顧客基盤の拡大
・本中期計画期間において、アプリの会員拡大・連携と共に、GINZA SIXやPARCOなど各社の自社カード発行業務をグループに集約します。また、グループ決済基盤の確立を契機に、グループ顧客基盤の拡大、顧客のLTV(顧客生涯価値)の向上に取り組みます。
・事業や店舗を超えた顧客連携を進めるほか、重点エリアを中心に顧客データベースの分析・活用などグループ顧客戦略を立案、推進します。
②エリアの価値最大化
・7つの重点エリアのうち、本中期計画では「名古屋栄エリア」でのシナジー創出に集中的に取り組みます。
・松坂屋名古屋店、名古屋PARCOの大型改装に加え、デベロッパー事業による複合商業施設の開業(2026年予定)、JFRカードでの外部加盟店の拡大などにより、グループ施設間の相互送客、エリア内の顧客回遊を促進します。これらを通じて街の賑わい創出や魅力化に貢献し、エリア価値の最大化をはかります。
・「名古屋栄」「大阪心斎橋」での複合商業施設の開業(2026年予定)に加え、「福岡天神」エリアでの開発計画を推進するため、デベロッパー事業への投資を強化します。一方、低稼働資産の活用、資産売却や入れ替えなど収益性向上に取り組みます。
・現在の建築内装事業、ビルマネジメント事業を統合再編し、重点エリアをはじめグループ内外の施設における高質な空間価値の創造、設備維持・管理など業務品質の向上、専門人財の確保・育成など事業の拡大をはかります。
③自社コンテンツの保有・開発
リテール事業の新たな成長に向けて、百貨店やパルコなど各社が有する目利き力や調達力、ネットワークなど組織能力を融合し、国内のみならず、海外・デジタル領域での事業展開を見据えた自社コンテンツ、サービスなどの開発、保有、また新規事業の開発を他社連携により推進します。
・全国主要都市に事業基盤を有する強みを活かし、食文化をはじめ、各地域ならではの独自商品やサービスの発掘、育成などに取り組みます。
・時代に先駆けた新たなコンテンツやテナントの誘致に加え、サブカルチャーを軸としたゲームなどコンテンツの開発、保有などの検討を進めます。
・サブスクリプション事業の強化に加え、消費の循環を促す事業への新規参入など、他社連携を通じた新規事業の開発を推進します。
・これらの取り組みを加速推進するため、M&Aや他社提携、当社の事業承継・CVCファンドによる成長戦略投資を強化します。
グループ経営基盤の強化
「2030年に目指す姿」の実現、戦略の実効性を高める経営基盤の強化に、グループ一体となり取り組みます。特に、価値創造の源泉である人財への重点投資、人財戦略の推進にスピードを上げて取り組みます。
1)人財戦略
・高度専門人財の採用強化や能力開発、次世代人財の計画育成、女性活躍推進など経営戦略と一体となった人財戦略を推進します。
・グループ内人財交流を活発化し、従業員が有する「知」の融合をはかると共に、活躍機会を拡大することで、チャレンジマインドの醸成につなげます。
・従業員一人ひとりが挑戦できる環境や仕組みを整え、従業員の意思・意欲や能力を引き出し、人と組織の持続的成長をはかる人財開発企業の実現に取り組みます。
2)財務戦略
・中長期的な資本収益性の向上をはかるため、成長性と収益性に基づく投資管理の徹底、事業会社との連携による社内浸透などROIC経営を強化推進します。
・資本市場等の動向を踏まえ、フリーキャッシュ・フローの創出、長期安定資金の確保、有利子負債のコントロールなど財務体質の強化をはかります。
3)システム戦略
・事業会社間の連携、社内外コミュニケーションの活性化を促すグループ共通システム、グループウェアを構築します。
・グループ共通会計システムの本格稼働による経営管理の高度化、業務の効率化をはかります。また、情報セキュリティや事業継続への対応強化をはかるほか、システム投資や資産管理の高度化などITガバナンスを推進します。
4)コーポレートガバナンス
・2024年度より始動した新たな経営体制のもと、経営の意思決定、執行の迅速化をはかると共に、取締役会による監督機能の強化などガバナンスの高度化により、中長期の成長実現、持続的な企業価値向上をはかります。
当社のマテリアリティ
「2030年に目指す姿」の実現に向け、当社が事業を通じて提供し続ける共創価値(「感動共創」「地域共栄」「環境共生」)に基づき、マテリアリティの見直しを行い、5つのテーマを特定しました。
マテリアリティへの取り組みを、課題の解決にとどまらず企業成長に結びつけていくため、事業戦略と融合させ推進します。このため、従来に増して従業員一人ひとりの熱量と行動が重要であるとの考えから、能動的な表現に変更しています。